第56章 危うく息が止まりかけた

「あなた……ッ!」

 橘美奈子は怒りのあまり全身を震わせ、過呼吸寸前で言葉を詰まらせた。

 だが、橘凛は彼女に一瞥もくれず、淡々と橘宗一郎に告げる。

「お父様、部屋に戻ります」

 言い捨てると、ペットキャリーを背負い、さっさと階段へ向かった。あとに残されたのは、土気色の顔をした橘美奈子、複雑な表情を浮かべる橘宗一郎、そして怒りで目を血走らせ、凛の背中を睨みつける橘沙羅だった。

(橘凛! このクズが! よくもお母様を侮辱したわね! 覚えてなさい、絶対にお返ししてやるから!)

 橘沙羅は拳を固く握りしめ、胸中で激しい呪詛を吐いた。

          ◇

 朝陽がどこか気怠げな光...

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